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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)5139号 判決 1958年5月01日

事実

原告主張の事実、大阪簡易裁判所昭和二九年(ノ)第七五九号調停事件の昭和三〇年九月八日の期日に、原告と被告との間に、(一)被告は原告に対し借入債務元金及び損害金の合計金二二二、八六四円及び右元金に対する昭和三〇年一〇月一日以降完済するまでの間年一割八分の割合による損害金を支払う義務を認める。(二)右合計金を分割し原告方に持参して支払うこととし、昭和三〇年九月一五日に右元金の内金五〇、〇〇〇円及び右損害金三四、二六四円を、昭和三〇年一〇月から完済するまで毎月一五日に右元金の内金二〇、〇〇〇円(但し最終回は金一八、六〇〇円)宛を支払う。右昭和三〇年一〇月一日以降の損害金は右分割支払毎にその時までの損害金を計上附加して支払う。(三)被告が右の支払を一回でも怠つたとき(但し二週間の猶予期間を認める)は当然分割支払の期限の利益を失い、支払残額及び右昭和三〇年一〇月一日以降完済するまでの間年一割八分の割合の損害金を一時に支払う。(四)被告は右(一)記載の債務を担保するため本件建物につき代物弁済を予約する。(五)右(三)所定の事実が生じたときは原告は被告に対し本件建物の価格を右(一)の金額として代物弁済を求めることができ、その場合被告は原告に対し代物弁済をし、本件建物の所有権移転登記手続をしてこれを無条件で明渡すこととする旨の条項を含む調停が成立した。

理由

原告と被告との間に、原告が主張する日に前記の原告主張通りの条項を含む調停が成立したことは当事者間に争いがなく、証拠によれば、原告が第一回分割支払日に第一回分割支払金の支払を受けたことを認めることができる。

第二回日の履行期である昭和三〇年一〇月一五日から二週間の猶予期間が経過した時に原告は調停の約定に基き、いわゆる代物弁済の予約を完結させる権利を取得したわけである。そして原告が被告に対し、その後である昭和三一年一月五日に同人に到達した書面でその旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがないから、右到達の日に被告の前記調停による金員支払債務は全部弁済せられて消滅すると共に、本件建物の所有権は原告に移転し、被告は当然にまたは調停の約定によりてその所有権移転登記の手続をし且つ建物を原告に明渡または引渡すべき義務を負うに至つたと解するのが相当である。尤も、調停の約定によれば、合計金二二二、八六四円及び元金に対する昭和三〇年一〇月一日以降の損害金全額の弁済になることになつているけれども、これは一部が弁済せられた後でも、履行遅滞が生じたときはやはり原告は、代物弁済として建物の所有権を取得することができ、既済金は返還する趣旨であると解するのが相当であろう。

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